研究紹介

局所・河川・流域スケールにおける研究

 モデル上の仮定を少なくし,流体(粒子)運動の素過程を反映することや安易に簡便なモデル化に走らない数値計算負荷を減らす工夫を行っています.それにより,実務への適用を念頭に幅広い研究者・技術者に使用できるモデル開発を目指しています.

(GAL-LESモデルを用いた研究)
混相乱流モデル「GAL-LESモデル」を用いた橋脚局所洗堀現象の解明
 
(Hy2-3Dモデルを用いた研究)
計算負荷を削減した三次元河川流計算モデル「Hy2-3Dモデル」
 
(RRI-RFモデルを用いた研究)
流域を一体的に解析可能な「RRI-RF1D・2Dモデル」の開発




 近年,豪雨災害による河川橋梁被害は増加傾向にあります.その大部分が橋脚前面が洗掘され,橋脚が上流側に傾斜,倒壊する洗掘による被害です.従来から,局所洗掘の研究は行われており,工学的に最も重要である最大洗掘深の予測式が様々提案されてきました.しかし,その予測値には実測値とのばらつきがあり,洗掘のメカニズムに立ち返り検討する必要があります.本研究室では,洗掘メカニズムとして重要な要素である流れ,河床形状,流砂に着目をし,液相(水)と固相(土粒子)両方を扱える混相乱流モデルGAL-LESの開発を行い,橋脚局所洗掘の現象解明に取り組んでいます.数値解析の結果より,洗掘形状の時間変化を把握することができ,実験時の洗掘状況と概ね一致することを示した.


Inoue, T., Hirotsugu, Y., Kashiwada, J., & Nihei, Y.:Interaction between horseshoe vortex structure and sediment transport around a river rectangular pier using a solid-liquid two-phase turbulent LES model. International Journal of Multiphase Flow, 105153, 2025.




 豪雨災害の激甚化に伴い全国各地で甚大な人的被害をもたらしており,その中でも,車の移動中に被災し,亡くなってしまう例が後を絶ちません.これまで多くの室内模型実験に基づくものがありますが,相似則を満足することが現実的に難しいという課題があります.また,氾濫流による車の安定性評価としては,浮遊限界(どの程度の水深で浮遊し始めるか)と滑り限界(どの程度の流体力で押し流されるか)の評価が必要であるものの,既往研究の多くは浮遊限界の検討で,滑り限界については未解明です.そこで本研究室では洪水流中におけるハンドブレーキの有無が車両の滑り限界に及ぼす影響を明らかにすることを目的として実車両実験を実施しました. 実験の結果,ハンドブレーキをかけていない条件下で流速1m/s,水深0.3mほどで車両が流失し,従来のハンドブレーキをかけた状態よりもはるかに低流速,低水深で車両が流失しました.


小野村史穂,井上隆,柏田仁,吉川康弘,二瓶泰雄(2025).実車両実験に基づく洪水氾濫流による小型車漂流条件.土木学会論文集B1(水工学),Vol75,No16


 近年河道内における樹林化が進行しており,河川整備・計画上での樹木の取り扱い方が問題となっています.河道内における樹木は治水・環境面で重要な役割を果たしている一方,洪水時には流体抵抗となり水位上昇や澪筋の固定化による堤防・護岸被災リスクを上昇させることが知られています. 本研究室では河道内樹木・樹木群が河川流に与える影響について着目しており,「LiDARを用いて高水敷上の樹木の三次元分布や投影面積の推定」,「ADCPやビデオカメラを用いて高水敷上の樹林帯内の三次元流れ場の計測」の2つをテーマに現地観測を江戸川において2024年度より実施しています.また,現地観測の結果から樹木の影響をHy2-3Dモデルに与えて,樹木・樹木群が洪水中に及ぼす影響を評価しています.
 
 
 
 LiDARによる3D点群取得の結果から樹林帯内において縦断・横断に樹木の三次元分布が異なることがわかりました.図は下草や葉があまり繁茂していない冬季に取得した点群データです.






 大規模な洪水が発生すると洪水流は三次元的に複雑な挙動を示し,それが被害の拡大や予測困難な事象を引き起こす原因となります.しかし,現在広く用いられている計算手法は平面二次元解析であり,三次元的な流れを正確に捉えることはできません.これは,三次元計算が膨大な計算負荷を伴い,広範囲を対象とした際に現実的な時間でシミュレーションを行うことが難しいためです.本研究室では,二次元と三次元計算を効果的に組み合わせることで,計算負荷を大幅に削減しつつ三次元的な流れを再現可能とする「Hy2-3D model」の開発を進めています.


 令和2年7月に大規模な洪水が発生した球磨川を対象に「Hy2-3D model」を適用した結果,計算負荷を十分に削減しながら,三次元的な流動現象を再現可能であることが示されています.これにより,水位や流速の予測精度が向上し,家屋などの被害メカニズムの解明に繋がっています.今後さらに,精度と効率性を高め,河川における様々な現象に加え,津波や土砂洪水氾濫など,幅広い分野で活用できるようなモデル開発を進めています.








 近年の水害の頻発・激甚化に対して,あらゆる流域関係者全体が協働して治水対策を行う「流域治水」が進められています.流域治水効果の定量評価には,流域を一体的に解析できるモデルが求められ,RRIモデルはその代表的なモデルの1つです.本研究室では,RRIモデルの河川流計算を高度化した「RRI-RF1Dモデル」,さらに河川流・氾濫流の一体解析と計算の高度化を行った「RRI-RF2Dモデル」を用いて治水対策評価や洪水氾濫解析,さらなるモデル開発・高度化を進めています.

 下図は千葉県一宮川流域における,2023年9月8日の大雨による浸水の状況を表しており,現地観測とRRI-RF1Dモデルを用いた数値解析によって得られた浸水深を示しています.このように水害の様子を再現・可視化することで,流域治水対策の定量評価を行うことを研究の目的としています.また,当研究室では水害発生後に現地観測を実施し,浸水深等のデータを現地で得る事を重要視しています.

 2023年9月8日の大雨時における千葉県高崎川流域を対象に解析した結果,氾濫流の影響がRRI-RF1Dモデルよりも詳細に河道水位に反映され,水位の精度が向上しました.また,氾濫水が地形に沿って流下し,河川を横断する道路盛土によって堰き止められて河道に戻る様子が確認できました.今後は,河床変動(洗堀・堆積)計算の融合や,Hy2-3D model との融合などを行い,様々な現象をより現実に近い状態で考慮し,それが流域全体でどのような影響を及ぼすかを評価できるようなモデルを目指しています.


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マルチハザードに関する研究





<背景>
 我が国は地理的・気候的条件から自然災害が発生しやすい立地となっています.また,近年の気候変動に伴い複数のハザードが同時期・同地域に発生するマルチハザード(MH)が発生しやすくなります.MHが発生すると被害の激甚化や大規模な社会混乱へとつながるため,MHの発生評価は今後必要不可欠です.


<手法>
 そこで本研究室では,素因を地震豪雨に着目し,長期間の時系列データを作成した後,一定の期間内に発生する地震と豪雨によるMHの発評価を,東北地方を流れる4流域を対象に行います.

 結果については,論文提出中のため後日掲載します.


<背景>
近年,気候変動に伴う豪雨災害の激甚化・頻発化により,甚大な洪水氾濫被害が発生しています. 洪水氾濫による人的被害軽減のための対策の一つとして,洪水氾濫が「いつ・どこで発生し,現在どこまで広がっているか」 をリアルタイムに把握する氾濫域モニタリングが重要となります.既往のリアルタイム洪水氾濫モニタリング手法はいくつか存在するが, それぞれ一長一短があり,現在は主となる洪水氾濫モニタリング手法が確立されていません.そこで本研究室では,IoT技術開発に伴い 普及し始め,防災面での活用が期待されている大量のビッグデータのうち,リアルタイム性に優れた車両通行データに着目し,リアルタイム 洪水氾濫モニタリング技術開発に向けた研究を行っています.


<手法>
本研究室では,TomTom社より提供の車両通行データを用いています.スマートフォンの位置情報やカーナビといったデータソースに基づき 取得され,日本国内では全走行車両のうちの7~37%が含まれています.道路ごとに通行台数情報,移動速度,移動時間などの情報を取得可能です. このデータを氾濫解析結果と比較することで,両者の関係性について検討します.


<結果>
右図は令和2年7月豪雨時の球磨川氾濫時の車両通行データと氾濫解析結果を重ねわせた図です.6時台,8時台と浸水範囲の拡大に合わせて 通行実績道路が減少しており,10時台に浸水ピークをむかえた後、12時台,14時台と浸水範囲の減少に伴い通行実績道路が増加していることが確 認できます.このことから車両通行情報と浸水範囲には深い関係性があることを確認し,浸水範囲推定に対する有用性があることが示されました.

(参考:杉田正俊,丸山佳子,西田純二,望月祐洋,水野真由己. 民間プローブデータを活用した道路危険箇所の早期検知,交通工学研究発表会論文集,Vol.44, pp.636-640, 2024.
Hiramoto, T., Kubota, R., Kashiwada, J., Mizuno, M., Nishi, K., Tanaka, M., & Nihei, Y.Relationship between vehicle probe data and flooding conditions for developing flood inundation monitoring method, Int. J. Disaster Risk Reduction, 120, 105373, 2025.)
結果図

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マイクロプラスチックに関する研究




近年、産業の発展に伴いプラスチック製品の生産量が増加する一方で、プラスチックごみの海洋流出による水環境汚染が国際的な課題 となっています。また、プラスチックが生態系に与える影響への懸念が高まっており、陸域から河川、そして海洋へと至るマイクロプ ラスチック(MP)の流出過程を把握するためのモニタリングの重要性が指摘されています。しかし、日本国内では海洋でのMP調査に比 べ、河川における調査事例は依然として限られているのが現状です。そこで本研究室では、全国の河川から流出するMP汚染の実態を明 らかにするための調査を実施するとともに、環境省と連携し、河川におけるMP調査の標準化を目的としたガイドラインの作成にも取り 組んでいます。
結果図




 1)Kataoka, T., Nihei, Y., Kudou, K., Hinata, H.:Assessment of the sources and inflow processes of microplastics in the river environments of Japan,Environmental pollution,Vol.244,pp. I_958_965,2019.
2)Kataoka, T., Experimental uncertainty assessment of meso- and microplastic concentrations in rivers based on net sampling,Science of the Total Environment,Vol.870,No.20,pp. 1-11,2023.
3) Tanaka, M., Kataoka, T., Nihei, Y.:Variance and precision of microplastic sampling in urban rivers,Environmental Pollution,Vol. 310, pp. 1-9 ,2022.
4) Tanaka, M., Okada, Y., Kashiwada, J., Kaneko, H., Ito, H., Nihei, Y.:Country-wide assessment of plastic removal rates on riverbanks and water surfaces,Marine Pollution Bulletin,Vol. 209, pp. 1-6 ,2024.
5) Nihei, Y., Ota, H., Tanaka, M., Kataoka., T., Kashiwada., J. : Comparison of concentration, shape, and polymer composition between microplastics and mesoplastics in Japanese river waters, Water Research., Vol. 249, pp. 1-13, 2024.
6) Yoshida, Y., Nihei, Y., Tanaka, M., Kataoka, T.,Ogata, R. :High-Resolution Mapping of Japanese Microplastic and Macroplastic Emissions from the Land into the Sea,Water Research,Vol.12, pp. 1-26,2020.


日本近海における陸域から海へのプラスチック排出量を、高解像度の地図として評価する手法を開発しました。 プラスチックはマイクロプラスチック(MicPs)とマクロプラスチック(MacPs)に分類され、河川中に観測されたMicP濃度と、 流域特性(都市化率や人口密度など)との相関を用いて、全国的なMicP濃度分布図を作成しました。その結果、 MicPとMacPを合わせた総プラスチック排出量は年間210〜4776トンの範囲で広く分布しており、特に東京圏などの人口密集・ 高度都市化地域、さらに名古屋や大阪といった大都市圏で高い排出量が確認されました.
結果図

 Yoshida, Y., Nihei, Y., Tanaka, M., Kataoka, T.,Ogata, R. :High-Resolution Mapping of Japanese Microplastic and Macroplastic Emissions from the Land into the Sea,Water Research,Vol.12, pp. 1-26,2020.


日本の河川水中に存在するマイクロプラスチックおよびメソプラスチックの濃度、形状、ポリマー組成を明らかにすることを目的として います。調査は全国147河川・185地点において、マイクロプラスチックとメソプラスチックの現地観測を実施しました。その結果、マイク ロプラスチックは全体の99%にあたる183地点で、メソプラスチックは74%にあたる136地点で確認されました。特に、マイクロプラスチ ックの濃度が高くなるにつれて、マイクロプラスチックとメソプラスチックの濃度差が顕著に増加する傾向がみられました。このことから 、適切なサンプリングによって、マイクロプラスチックとメソプラスチックの両方を監視することが、プラスチック汚染の過小評価を防ぐ うえで重要であると示唆されます。
結果図

Nihei, Y., Ota, H., Tanaka, M., Kataoka., T., Kashiwada., J. : Comparison of concentration, shape, and polymer composition between microplastics and mesoplastics in Japanese river waters, Water Research., Vol. 249, pp. 1-13, 2024.


国土交通省が提供する全国規模の清掃活動データを用いて、河川敷および水面から回収された人工由来のプラスチックごみの年間回収量を 定量化しました。このデータセットには、2016年から2020年にかけて、全国109の河川流域において、ボランティアや行政による清掃活 動を通じて回収されたごみの量が含まれています。プラスチックごみの年間回収量は763〜1177トンで、平均すると年間938トンでした。 また、流域ごとの回収量は、台風の接近や集中豪雨といった極端な気象現象と関連しており、これらの事象が地域での洪水被害を引き起こ したことが、回収量の増加に影響を与えていると考えられます。
結果図

Tanaka, M., Okada, Y., Kashiwada, J., Kaneko, H., Ito, H., Nihei, Y.:Country-wide assessment of plastic removal rates on riverbanks and water surfaces,Marine Pollution Bulletin,Vol. 209, pp. 1-6 ,2024.


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大気・海洋・河川環境に関する研究

 大気と海洋,そして河川を結合した統合モデルの開発に取り組んでいます.従来の洪水リスク評価は,上流側の降雨量増加や下流側の潮位上昇といった境界条件を修正することで対応してきました.しかしながら,実際には風応力や乱流エネルギーの供給,海域から侵入する波浪といった要因が河川流に大きな影響を及ぼすと考えられます.スーパー台風を想定したシミュレーションを可能とするこの結合モデルにより,複合ハザード下での水位や流速分布を精緻に予測し,河道計画等への反映を目指します.




 気候変動による豪雨の頻度・強度の増大は既に顕在化しており,これに対応する河道整備(河道掘削等)が検討されています.一方で,渇水の長期化や海面上昇も見込まれており,河道掘削と合わせて塩水遡上距離の伸長を引き起こし,河口域における水利用・生態系にリスクを及ぼすことが考えられます.独自開発の高効率三次元流動モデルに塩分輸送計算を組み込み,多様なシナリオを解析して取水リスクや生態系影響を定量的に評価可能とすることを目指します.


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