液晶の欠陥

液晶の欠陥を知る前に、結晶における欠陥をまず知っておこう。
結晶は、位置の規則性を持っているので、原子が規則正しく並んでいる。
その規則正しい位置の規則性が途切れたところが欠陥になる。
たとえば、原子1個が抜けることで、位置の欠陥が生じている場合、
四角形の辺に位置する原子数が同じになるよう四角形を描いたとき、
正常な結晶では最初の原子に戻ってこれるが、欠陥があるとベクトル1個分だけ足りなくなってしまう。
この欠陥を転位(dislocation)といい、足りないベクトルをバーガースベクトルという。


結晶は、位置の規則性しか無いので、転位しか存在しないが、
液晶は、位置の規則性があるものに加え、方向の規則性があるものもある。
つまり、転位以外の欠陥が存在する。それが回位(disclination)である。
例えば、円柱状の容器にネマティック液晶を詰めたとき、容器に沿って液晶分子の長軸方向が並んだとしよう。
中心に行くにつれて、液晶分子の長軸方向が描く円は小さくなっていき、最後は点になってしまう。
点ということは、大きさを持った分子は存在できない。つまり規則性が途切れてしまうのです。



この回位は、無配向状態のネマティック液晶で、容易に観察することができます。
ただ、気を付けなければならないのは、偏光顕微鏡で回位を見た時には、点が見えるわけではありません。
偏光顕微鏡の明暗は、偏光子方向の光が、液晶分子で偏光され、検光子を通れるかどうか?
で決まりますので、回位周辺の分子配向から回位の存在を確認することになります。
クロスニコル(偏光子と検光子を直交させた状態)の偏光顕微鏡で、回位を見ると、
回位を中心に4本または2本の暗い部分(ブラシ)が観察できます。


無配向状態のネマティック液晶では、2本のブラシや4本のブラシが観察できる。
それはまるで、回位を結び目として、ブラシが網目状のパターンとなっている。
この特徴的な組織を、シュリーレン組織と呼んでいる。



スメクチック液晶の欠陥

スメクチック液晶は、層構造を持ち(位置の規則性があり)、分子配向方向の規則性も持っているため、
ネマティック液晶に比べて、欠陥が複雑になってくる。
ざっくりとまとめると、

ネマティック液晶は
位置の規則性が無いので、転位は存在しない。
方向の規則性があるので、回位が存在する。

スメクティック液晶は
位置の規則性があるので、転位が存在し、
方向の規則性があるので、回位が存在する場合がある。

となる。
「方向の規則性があるので、回位が存在する場合がある。」
と書いたのは、例外があるからです。それがスメクティックA相。
分子が層法線から傾いていないスメクティックA相において、回位を作ろうと思うと、
層構造を壊さないといけなくなり、そもそもスメクティックとして存在できない。
つまり、スメクティック相では、方向の規則性はあっても、回位が存在できない場合があるのです。

一方、分子が層法線から傾いていないスメクティック相では、回位があります。
層構造の面内方向に液晶分子を映したベクトルをC-ダイレクタと呼ぶのですが、
このC-ダイレクタに対して、ネマティック液晶で説明したような回位ができることになります。


転位については、簡単な例として、層構造の繋がりが非連続になるケースを考えてみましょう。
とても大げさな図を示しますが、層法線方向が歪み、層の数を減らさないと、層構造を保てない場合を考えます。
層構造の減少により、転位はできてしまうのですが、層構造を維持するほうが大事なので、
層構造を維持するように何とか液晶分子は、構造を構築しようとします。
このとき、層の数が変わっているので、層と層の間で、構造の非連続点が生じ、転位と生じます。



ジグザグ欠陥(Zig-Zag defect)

強誘電性液晶で生じる特殊な欠陥であるジグザグ欠陥を最後に説明しましょう。
強誘電性液晶の章で紹介したように、SmC相の層構造には、Chevron(シェブロン)構造と、
Bookshelf(ブックシェルフ)構造の2種類があります。


このシェブロン構造において、ラビング方向に対する分子の傾きの差異で、C1構造とC2構造があります。
C1構造はラビング方向と反対方向に層が折れ曲がりますが、C2構造はラビング方向に層が折れ曲がります。



このC1構造とC2構造の境界でジグザグ欠陥は発生し、ヘアピン型と稲妻型の2種類に分かれます。
C1構造とC2構造の境界欠陥であるため、ヘアピン型と稲妻型はセットで存在することが多いです。



図を使って、ジグザグ欠陥とシェブロン構造を現すと次のようになります。
ヘアピン型は滑らかな境界線のように見えますし、稲妻型は名称通り稲妻のようにジグザグして見えます。
なぜこのような形で欠陥ができるのかは、よく分かっていません。



ジグザグ欠陥の抑制

ではジグザグ欠陥を無くすためには、どうすれば良いでしょうか?
考えられるのは、C1構造かC2構造のいずれかにシェブロン構造を統一するという方法です。
C1構造とC2構造において、界面が要請するプレチルト角と、分子自体のチルト角を示した図が以下です。
配向膜の種類を変えるよって、プレチルト角は小さくしたり、大きくしたりすることができます。
プレチルト角が小さい時を低プレチルト、プレチルト角が大きい時を高プレチルトと呼びます。
下図で示したように、液晶分子がコーン状の分子が存在できる範囲を逸脱したものがあります。
これは存在を許容することができない構造であるといえます。
したがって、下図であれば、高プレチルトの配向膜を使うことによって、C2構造は禁制となり、
C1構造に統一することができる。つまり、ジグザグ欠陥を抑制することができるのです。