PSCOF構造液晶セル


高分子を用いた液晶セルとして、PSCOF構造液晶セルというものが存在する。
PSCOFとは、「Phase Separated Composite Organic Film」の頭文字をとったもので、日本語では「液晶/高分子相分離層構造液晶セル」といわれる。
模式図を下図に示した。

高分子安定化のときと同様にUVを照射することによってモノマーを重合させ高分子ネットワークを形成させるのですが、高分子安定化と異なるところはUV強度変調、つまりセル内にUVの強さが異なるような因子を 持っていることです。最も一般的な因子としては、液晶分子自体がUVを吸収することができる。または、UV吸収剤を添加する。などがあります。
このような因子が存在する場合、UVを照射した側が最もUVの強度が大きくなり、また照射側の対極基板側に近づくにつれUV強度が徐々に小さくなっていきます。 このUV強度の段階的な変化(UV強度変調)により、UV照射側で重合が選択的に起き、図に示すような層分離構造が作られるのです。
この層構造により、従来の液晶とガラス基板の界面に新しい界面を持った高分子層を導入できます。
液晶にとって界面は非常に重要なものであり、液晶の物性に大きな影響を与えるものです。 この界面をPSCOFによってコントロールする事で、新しい特性を誘起させることができるのです。

では、このPSCOFの利点は何かを説明しましょう。
強誘電性液晶セル」でお話したSSFLCというセル厚の薄い液晶セルがありましたね。
あの話の中で、セル厚の薄いセルを作るのは非常に難しいという事を説明しましたが、このPSCOFの技術を用いれば、図でも分かるように重合したポリマーが層分離することでセル厚が薄くなったような状態になります。 つまり、モノマーの混合比を調節するだけで、セル厚をコントロールでき、SSFLCで用いるような薄いセルも簡単に作製できるのです。

次の図を見てみましょう。

左図は、SSFLCと強誘電性液晶を用いたPSCOFの電場に対する分子のチルト角変化を示しています。SSFLCが電場に対して非常に急峻なチルト角変化を持っているのに対し、 PSCOFは電場に対する分子のチルト角変化がSSFLCに比べ非常に緩やかです。
分子のチルト角変化は、透過光強度に対応します。つまり急峻なチルト角変化を持つSSFLCは透過光強度も急峻な変化をするため中間調表示(グレイスケール)を実現する事ができません。
しかし、チルト角変化の穏やかなPSCOFでは中間調表示が可能となるのです。このこともPSCOF構造の利点の一つなのです。

以上はディスプレイ応用におけるPSCOFの利点を話してきました。 しかし、PSCOFはディスプレイ応用に限らず、界面をコントロールする事ができるという特性を利用して、生体材料などへの応用も期待されています。

[参考文献]
Valery Vorflusev, Jae-Hoon Kim, Satyendra Kumar:Pramana J.Phys.,Vol.53,No.1,(1999) pp.121-129.

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