嶋田先生からのメッセージ

 命に関わる医薬品を扱う人々は、高い倫理観を持って仕事をしている……そう信じたいところですが、「最低限の法律さえ守っていればそれで良い」と考えている人が多く、医の倫理・薬の倫理が軽視されているのが現状です。もし医療人がみな、高い倫理観をもって業務を遂行すれば、今の医療がどれほど良くなるか、みなさんは考えたことがありますか?

 薬剤師の任務は、「調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」と、法律で規定されています。これは国が薬剤師に、「保健衛生の分野で基本的人権の保障を全うする旗手になれ」と求めていると理解できますね。さらに、国民から期待される医薬品の適正使用に貢献するためには、薬剤師にも高い研究能力が求められます。私自身、病院薬剤師として勤務しながら研究を続け、博士の学位を取得しました。

 みなさんには、病院・薬局での臨床業務と、生涯にわたる研究活動を両方出来る、薬剤師という職業の楽しさに気がついて欲しいと思っています。このように、当研究室は高い倫理観と研究心を持った、「キラリと光る薬剤師」の養成を基本理念としています。「医薬品業界の悪しき慣行は、将来、私が打破してみせる!」……そんな高い志を持った薬剤師を育てるのが私の夢です。

2つのエピソード -当研究室の設立理由-

 1つめのエピソードは、ソリブジン薬害に関連します。医薬品の適正使用を考える上で忘れることができないソリブジン薬害。ところが私が病院で勤務していた頃、医薬情報担当者の約6割はこの薬害を知らずに仕事をしており、上司の営業所長でさえも知らなかったという驚愕の事実がありました。これでは困ると私が指摘した際、営業所長の口から出た言葉は次のようなものでした。

--そんなこと、事件を起こした当事者の企業でなければ、もう誰も知らないですよ。いまさらそんなことを指摘されても、我々だって困ります。

 この言葉は高い安全性が求められる医薬品を扱う企業として、無責任だと思いませんか。

 2つめのエピソードは社会に出た薬剤師の職業倫理について。独自の薬剤師研修カリキュラムで「卒後教育もばっちりです」と謳っている某薬局チェーン。ところが杜撰な業務が気になった私が、改善を求めるために女性エリアマネージャー(このカリキュラムで育成されたエリート社員)を呼んだ際、彼女の口から出た言葉は次のようなものでした。

--グレープフルーツジュースと薬の相互作用のメカニズムなんて、細かいこと聞かれてもわかりません。大学卒業後10数年経ちますが、学会なんて一度も行ったことがありません。

 彼らは法律に違反していないので、法で罰することはできません。しかし倫理に悖る行為をしています。長年沁みついた彼らの意識を変えるのは難しい。社会に出る前の学生に意識改革を行わないと同じことの繰り返しになる。これが私が病院薬剤師から大学教員へ転職した動機の一つです。