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中性子回折残留応力測定装置(RESA)を用いたコンクリート中の鉄筋応力測定に関する研究 |
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research member M2 太田 匠美 B4 竹下 彩 B4 長縄 美穂 |
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1.はじめに 鉄筋コンクリート造は,引張りに強い鉄筋と圧縮に強いコンクリートを相補的に組み合わせた複合材料です.この相補的関係は鉄筋とコンクリートの付着特性によって左右され,ひび割れ挙動や鉄筋コンクリート部材の特性に影響を与えます.これまで,鉄筋の応力は鉄筋表面に箔ゲージを離散的に貼付することにより測定されることが一般的でした.しかし,ゲージを用いた測定では貼付による測定系への影響により,ひび割れ部近傍などの応力を直接測定することは困難でした.そこで本研究では,残留応力解析用中性子回折装置(RESA)を用いて,鉄筋コンクリート中の鉄筋応力を完全非破壊・非接触測定により測定することを試みました. |
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2.RESAによる測定の概要
RESAとは,日本原子力研究開発機構の研究用原子炉を中性子線源とする中性子回折装置です.本装置は,研究炉より得られた中性子線を単一波長に制御して照射し,試料の中性子回折角度を測定するものです.負荷をかける前後の試料に対して回折角度を測定することで,回折角の変化量からひずみを計測することが可能となります.RESAの装置概観をfig.1 に示します. 中性子の回折角は,スリットにより波長を制御したビームを試料に照射し,試料中の結晶格子面で回折した中性子を,中性子検出器(1次元検出器)により測定します(fig.2).RESAにより実際に得られる測定結果は,fig.3 に示すような回折角および回折強度(中性子検出カウント数)の関係であり,この数値データをガウス分布に従うものとしてフィッティングし,ピーク角度を得ます.このピーク角度を回折角として定めます. 試料に応力が作用すると,結晶構造の格子間隔が変化することにより回折角も変化します.fig.4 に,負荷をかける前後において中性子回折角が変化する概念図を示します.この回折角の変化量を測定することでひずみの計測が可能となり,この値に弾性係数を乗ずることで応力を得られます. RESAを用いた残留応力測定は,同様の放射線測定技術であるX線を用いた測定に比べて中性子の透過性が高く,より深い部位の応力の測定が可能となります. |
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fig.1 RESA概観 | fig.2 測定概要 |
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fig.3 回折角の変化 fig.4 結晶格子の変化 | |
3.実験概要 @. では,鉄筋の基礎的物性値(無載荷時の鉄筋の中性子回折角)を得ることを目的に,載荷重を増加させながら回折角を測定し,応力と回折角の関係を得ました.また,中性子を遮る水素原子が多く含まれるコンクリートによる測定系への影響について検討するため,試験体中央に円孔を設けたブロック状のコンクリート中に鉄筋を通し,付着応力のない状態の鉄筋応力を測定しました.試験体の概要をfig.5
に示します. | |
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fig.5 試験体概要 |
fig.6 付着試験用の鉄筋コンクリート試験体概要 |
4.試験結果 @. 鉄筋を用いた基礎的物性試験・付着応力のない状態における鉄筋応力測定試験の結果 RESAによる鉄筋のみの応力測定結果をfig.8 に示します.測定結果より回折角2θ0 はおおよそ46.213°であり,文献値とも整合した高い精度での測定であることが確認できました. 付着応力を有さないコンクリート中の鉄筋応力測定の結果をfig.9 に示します.これより,鉄筋のみの測定結果に比してばらつきは大きくなったものの,同様に高い線形性を有することが明らかとなり,コンクリートに埋設した場合においてもRESAによる応力の測定が可能であることが示されました. A. 鉄筋コンクリート付着試験体を用いたひび割れ近傍の鉄筋応力測定試験の結果 |
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fig.7 RESAによる測定結果 D16鉄筋のみ
fig.8 RESA測定結果 コンクリート中に鉄筋配置した試験体 |
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fig.10 付着応力を有する試験体の応力分布 | |
5.今後の展望 RESAを用いた鉄筋の応力測定により,鉄筋のみの場合と付着応力の発生しない鉄筋コンクリートの場合の測定においては,高い精度の測定が可能であることがわかりました.また、測定により得られた鉄筋の応力分布とコンクリート表面にみられるひび割れの相関は明らかではなく,今後はコンクリート内部における鉄筋近傍の微細ひび割れの状況の詳細な検証を行いたいと思います. |
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