教育と研究は何のためにするのですか(大学の学びの心構えは):Q&A (富澤貞男)

 大学において,「教育と研究は何のためにするのですか?」,そして「大学へ入学してからの学びについての心構えはどのようなものですか?」というようなことについて,しばしば,ご質問を受けますので,Q&Aの形式で以下に記載します.なお,A(回答)は公式なものではありません.皆さんそれぞれ考え方は違いますので,以下はあくまで私個人の考えですので,ご参考程度ということでご覧いただければ幸いです.

Q1
 大学時代を有意義に過ごすには,どのようにすれば良いですか?

A1
 大学では自分が専攻した専門分野を学ぶと共に,教養分野の科目も幅広く学びます.高校時代に定期試験や大学受験だけを目標に勉強されてきた方も多くおられると思いますが,大学4年間は,良い成績での単位取得のための勉強だけでは不十分と思います.大学へ入学した多くの1年生は,体は大人でも精神面はまだまだ子供といえます.4年後に卒業するときには精神面も成長し大人となって社会へ羽ばたくことが重要です.

 そのためには,大学在学中に,たとえば,旅行したり,いろいろなアルバイト経験してみたり,ボランティア活動に参加したり,学内外のサークル活動をしたり,年齢問わず多くの人と議論(ティスカッション)したり,機会あれば留学してみたり,勉強だけで無く,できる限りいろいろなことを体験,経験することが重要です.人生で若いうちに一番自由にいろいろなことができるのは大学時代だけと思います.4年間はあっという間に過ぎます.いろいろなことを経験して心身共に成長し,立派な大人となって大学を卒業してほしいです.毎日,有意義に過ごしてほしいです.


Q2
 何のために教育を受けるのですか?

A2
 いろいろな考えがあるかと思いますが,私の場合は,「自分が明日からの人生を今以上に,もっともっと楽しくするために」教育を受けています.自分のために受けています.たとえば,地理や歴史などを少しでも勉強すれば,国内や海外の旅行が今以上に楽しくなると思います.たとえば,観光地巡り,大自然,日本(世界)遺産,博物館などを見て回るとき,全てが今以上に関心が持てて心の奥底から深く感動する楽しい旅になると思います.また,英語に加えて,それ以外の外国語(たとえば,ドイツ語やフランス語など)を少しでも勉強したことがあれば,しゃべれなくても,海外へ行ったとき楽しいと思います.また急に海外出張することになったとき,少しでも勉強した経験があれば,慌てることもないかと思います.国語,公民,数学,理科などの分野も同様です.たとえば,公民分野を少しでも学べば,毎日報道されている政治や経済などに自然と関心がでると思います.また,理科分野を少しでも学んでいれば,今以上に環境問題や気象変動(天気予報)などに自然と関心を持ち,明るい人生になると思います.

 大学で自分が専攻した専門分野の科目だけでなく,何でも関心をもって勉強することが大切かと思います.教養科目,専門科目,また文系科目,理系科目など区別することなく関心を持って勉強することが重要です.何でもいろいろなことに関心を持ち勉強すれば,今日,明日からの皆さんの人生が,もっともっと楽しくなると思います.

 また,各自が今以上に楽しい人生を送るためには,勉強は大学時代だけでなく,卒業してからも一生勉強し続ける,つまり,生涯学習することが大切です.何でも関心を持ち続け,絶えず勉強し続ければ,毎日毎日の自分自身の人生は,日増しにどんどん心豊かになり楽しくなって行くと思います.


Q3
 大学そして人生でどのように勉強に取り組むことが大事ですか?

A3
 先にも述べましたように,たとえば,大学では自分が専攻した専門分野の科目だけでなく,何でも関心をもって勉強することが大事かと思います.皆さんの人生の楽しさは「無限」であると思います.今,自分がすでに十分な楽しい人生を送っていると満足している方も,実は今以上にさらに何でも関心を持ってもっともっと勉強すればする程,もっともっと無限に楽しい人生を送ることができ,「こんなに楽しい人生があったんだ」とより一層実感するのではと思います. 
 学生から「先生の科目は役に立ちますか.役に立つならば履修します」と言われるときがあります.この人は狭い世界しか見えず,無限に楽しい人生を送ることができるだろうかと心配になってしまいます.
 皆さんには,無限に楽しい,心豊かな明るい人生を送ってほしいです.そのためには大学在学中,そして卒業後も生涯にわたり,あらゆることに何でも関心を持ち続け,絶えず勉強し続けてほしいと思います.


Q4
 何のために研究をするのですか?  

A4
 まず,教育と研究は違います.研究は世界中で,どこにもない(教科書や参考書等にない)新しいこと(理論やその応用など)を作り上げることです.たとえば,数学でいうならば,新しい定理などを作ることです.高校までは教育を中心に行いますが,大学は教育と研究の両方を行います.なお,大学によって教育と研究の比重の置き方に違いはあるかと思います.通常,多くの大学で3年生までは講義を中心とする教育かと思います.高校の延長という感じです.4年生(場合によっては3年生)から各専門の先生の研究室へ所属し,各先生の専門について深く学びます.最初はその勉強(教育)ですが,次第に研究に入って行きます.世界で誰も見つけてない新しいことを作り上げて行きます.教科書や参考書にない新しいものを作ることの始まりです.皆さんに取っては人生初の本格的な研究への取り組みかと思います(小学生の夏休みの自由研究等で少しは研究に取り組んだかもしれませんが).自分の研究の面白さがわかれば,自分の趣味以上にこれまでの人生で経験したことのない研究の醍醐味を味わうことができ,時間を忘れ研究にのめりこむと思います.

 「何のために研究をするのか?」という質問ですが,多くの研究者の方と同様な考えと思いますが,私も「世界中の人が幸せになるために」少しでも貢献できればとの思いで研究を行っています.どのような研究でも,学術雑誌等へ発表することにより,世界中の人(特に研究者)の目に触れ,それを基に世界中の人の幸せに繋がって行きます.たとえば,数年前には簡単には治らなかった病気が今やすぐに治るようになっています.医療分野の発展は日進月歩と言え,多くの患者が救われています.これには,数学,統計学,情報学,AI(人工知能),物理学,電気,医学,薬学,生物学,化学などの全ての分野(一部分の分野だけでなく)の新しい研究成果が基になっています.また科学技術の進歩は人々の幸せに繋がります.世界中の種々の分野での多くの研究者が,世界中の全ての人が幸せになるために日夜研究しています.皆さんも大学の研究室に入り,若い方の斬新な発想で研究に取り組んでもらいたいです. 


Q5
 大学と高校の授業の違いはありますか?  

A5
 大きく違います.高校は,文部科学省が定めた教育課程の基準を示した「学習指導要領」に基づいて作成された教科書を用いて教育が行われます.つまり,教科書の範囲内のことを学べば基本的には良いということかと思います.大学入試問題の出題範囲も文部科学省で定められているかと思います.高校の教科書の範囲内と決められています.しかし,大学の教育はそのような制限は全くないです.範囲がないので教員が教えたいことは無限にあります.しかし,講義回数(教えられる時間)のこともあり,無限には教えられないです.各教員が,たとえばAという科目に関しては,Aという分野を学ぶ上に必要な最低限のことしか通常は教えないです.後は,自分で無限にあることを学ぶという考えです.

 大学は高校までと大きく違い,何でも原則,自分で勉強するということです.学ぶ範囲は無限であり,この講義でここまで教わったので,そこまで勉強すれば十分ということではないです.講義を基に後は自分でそれ以上のことを勉強することが極めて重要です.個人差がありますが,講義時間の3倍も,5倍も,10倍も,あるいはそれ以上の勉強時間が必要です.大学は自分で勉強することが原則であり,自分で努力し悩みながら,時には教員や学生通しで議論しながら,自分が納得できるまで勉強することにより,真の実力がつきます. 


Q6
 大学の授業について行けますか? 

A6
 大学の授業は,高校と違って,特に講義は,授業時間内で全て理解することは困難な場合が多いです.通常,高校の授業のスピードと比較すると大学の講義は速い傾向にあり,また内容も難しい科目が大変多いです.授業時間内に理解できなくとも,十分時間をかけて復習をすることで多くの場合は理解できるようになります.もちろん個人差があります.ちなみに講義の単位とは学修に要する時間を表す基準で,講義2単位は,大学における 30 時間(通常90分(1コマとも言う)を2時間と見なす)の講義に加えて60 時間の予習・復習からなる自己学習が伴った 90 時間の学習を行った上で試験に合格して単位が与えられます.つまり,十分な予習や復習をすることで理解できます.


Q7
 大学の授業や学生生活で最も大事なことは何ですか? 

A7
 大学において大事なことはいくつもあるかと思いますが,そのうちの1つは基本的には学生の皆さんが「自由」に取り組むということかと思います.大学は「自由」であることを大切にします.「自由」であるということは,皆さんは何でも自分で考え,自己責任で自主的,積極的,さらに主体的に行動を起こすことが重要であると思います.たとえば,講義は聴いただけでは理解できない場合が多いですが,予習復習を十分に行い,疑問点がある場合は友人や教員へ積極的に質問することが大事であります.また理解できたようでも自分で勘違いしている場合がかなりありますので,友人,先輩,教員等と積極的に議論(ディスカッション)することも重要です.授業中以外でも学生から教員へ積極的に質問や何か相談に行った場合,教員は丁寧に答えてくれます.学問への取り組みや学生生活など学生は自己責任で自主的,積極的,主体的に取り組むことが大事であります.

 細かいことですが,たとえば,学生が授業を欠席しても,教員は休んだ理由を聞いたり,「次回から出席しなさい」と学生へ言うことは通常はしないかと思います.またレポート課題を締め切り日までに提出がない学生へ,「レポートを提出しなさい」と言ったりは通常はしないかと思います.多くの教員は「その学生はこの授業に関心が無くなって履修を辞めたんだ」と判断するかと思います.大学は各学生の「自由」を大切にしますので,学問への強制は教員はしないです.各学生の大切な人生への取り組みは各自が自由であるべきで,他に学びたいことや人生やりたいことがあれば,いつでも挑戦したり,また進路変更するのも自由にして良いのではと思います.学生は「自由」にいろいろなことに取り組むことにより,社会人に必要な主体性等を学生時代にしっかりと身につけてほしいと思います.


Q8
 なぜ,講義を受けることが重要なのでしょうか?

A8
   同じ講義名で同じレベルの講義内容であっても,先生によって教え方は皆違います.教科書や参考書に書かれてない裏側の説明を重視して説明する先生も多くおられます.独学ではわからない,自分で勘違いして間違って覚えている場合も多々あるので,講義を聴講することは大変重要なことです.また,一般に大学の先生は各分野の専門家(研究者)ですので,その分野に関して国内や世界の著名な先生の講義を聴講できれば大変恵まれていると思います.そのときに講義内容が全く理解できなくても,その分野の著名な先生の最高に素晴らしい講義を受けたということが,一生の宝となり,卒業してから皆さんの心の支えとなり自信となり,安心して社会での活躍に繋がります.


Q9
 全ての科目に成績が優秀である必要がありますか? 

A9
 もちろん,すべての科目について成績が優秀であることは望ましいことです.しかし,重要なことは,大学在学中に,何か1つ自分が関心を持って真剣に取り組めるものを見つけることが,皆さんの今後の人生にとって重要なことです.卒業するまでに多くの授業科目を履修しますが,1つだけで良いので,自分が関心ある科目を見つけ真剣に取り組むことが重要です.少なくとも1つで良いです.1つ真剣に関心を持って取り組んだことが,自分の今後の人生に取って心の支えとなり自信に繋がります.


Q10
 良い研究をするためには,学部の全ての授業科目の成績が優秀である必要はありますか? また,研究はどのように取り組めば良いですか?

A10
 授業科目の成績が全て優秀であっても,良い研究が見つからない人もいます.逆に,授業科目のほとんどの成績が良くなくても,研究の面白さがわかれば,その人はあっという間に良い研究成果を上げる場合もあります.研究の面白さがわかった時点で,研究に必要な関連科目を勉強すると極めて短期間で身につくことは良くあることです.

 研究は,教科書・参考書に書かれていること(たとえば,数学の定理など)や,すでに学術雑誌等に公表されている論文に対して,絶えず疑問を持つこと,違った角度から見たらどうなるか,拡張はできないかなど,いつも自分が既存の結果を変えてやるような野心を持って取り組むことが重要かと思います.毎日毎日,昼夜を問わず熱心に研究に取り組めば,良い研究成果に結びつくと期待できると思います.

 オリンピックや世界選手権大会等を目指すトップアスリートは,目標に向かって毎日毎日(土曜も日曜も休日も)一瞬たりとも休むことなく努力し続けているかと思います.一流の研究者はトップアスリートと同様で,毎日毎日,一日中どのようなときでも常に研究のことが一瞬たりとも頭から離れることなく考え続けているかと思います.皆さんも研究の面白さがわかると,自分の趣味以上に毎日どのようなときでも「自然」と研究のことが頭から離れなくなり,時間を忘れ研究にのめりこみ,「研究の魔力」に引き込まれて,まさに研究者の域に近づくようになるかと思います.皆さんもトップアスリートと同様に研究に没頭されると世界中から注目される素晴らしい研究成果が得られると思います.

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