研究内容


MARVELドメインをもつ膜蛋白ファミリー分子の機能解析

 リンパ球B細胞上の抗原受容体(BCR)は抗原と結合した時、主に2つの役割を果たす。1つは細胞の活性化・増殖・分化等を誘導するシグナルを細胞内へ発信することで、もう1つは抗原の分解と提示のために抗原をエンドサイトーシスによって細胞内へと取り込む(インターナリゼーション)ことである。細胞内シグナル伝達では、まずチロシンキナーゼの活性化によって種々のシグナル伝達因子がリン酸化され、互いに結合して細胞膜下にシグナロソームと呼ばれる複合体を形成する。ここで活性化したフォスフォリパーゼ(PLCγ2)、PKC、PI3キナーゼなどの酵素がさらに複数のシグナルカスケードを活性化することは生化学的にはかなり明らかになっている。しかし、これらのカスケードの最後に活性化された例えばMAPキナーゼや転写因子などがどのように細胞膜下から核まで輸送されるかについてはほとんど分かっていない。また同様に、どうやってアポトーシスあるいは生存のシグナルがミトコンドリアへ、翻訳促進シグナルが小胞体へと伝えられるかも不明である。一方、インターナリゼーションされた抗原は初期エンドソームを経由して、新生MHC-classIIに富むエンドリソソームコンパートメント(MIIC)に運ばれ、分解されペプチドとなり、MHC上に提示される。この過程は、細胞内シグナル伝達と同様、抗原受容体IgaサブユニットおよびチロシンキナーゼSykを必要とするが、インターナリゼーションされた抗原―受容体複合体の細胞内輸送のメカニズムはよく分かっていない。これらの研究の進展には、細胞内蛋白輸送に関与する新たな分子の同定とその機能解明が必要である。
 われわれはBCRシグナル伝達に関与するアダプター分子 BLNK(SLP-65/BASH)を同定し、その機能について研究してきた。BCR架橋によりBLNKは種々のシグナル因子と結合し、細胞内カルシウム上昇、MAPキナーゼやNF-κBの活性化、細胞の活性化・増殖に必要である。BLNK欠損マウスではプレB細胞期に分化の停滞が起こり、またB細胞の成熟も低下する。このマウスの骨髄にはプレB細胞受容体(preBCR)陽性の細胞が蓄積していることから、BLNKはpreBCRからの分化促進シグナルだけでなく、preBCRのインターナリゼーションにも必要であると思われた。BLNKの作用機序を理解するために、種間で保存されているN末端の塩基性ドメインをbaitとして、2ハイブリッド法によりBLNKと結合する蛋白を同定した。その1つBNAS2(後にCMTM3と改名)は4回膜貫通ドメインを内包するMARVELドメインおよびロイシンジッパー様の配列を有し、主に細胞膜と初期エンドソームにクラスリンとともに局在した。また、CMTM3はB細胞表面でIgMと結合し、IgM架橋によって細胞内に取り込まれた。ニワトリB細胞株DT40のCMTM3欠損株を用いてCMTM3の機能解析を進めている。
 一方、データベースによる相同性検索より、CMTM3と同じくMARVELドメインを含む分子群を同定した(CMTM1~8)。これらは相互に弱い相同性を示し、そのほとんどは2つの遺伝子領域にクラスターを成し、遺伝子ファミリーを形成していた。このうち、血球系細胞に選択的に発現するCMTM7の機能解析を行った。CMTM7も細胞膜上でIgMおよびクラスリンと共局在し、初期エンドソームにも局在し、表面IgMの架橋により細胞内に取り込まれた。siRNAを用いたノックダウン法により、CMTM7は表面IgM架橋によるBLNKのチロシンリン酸化、ERK, JNK, IκB, PKCβの活性化に必要であり、BLNKとSykの会合を仲介していることが分かった。さらに、CMTM7は表面IgMとも会合していた。以上より、CMTM7は細胞膜上でIgMと複合体を形成し、BLNKをリクルートすることによりSykによるBLNKのリン酸化を促進し、BLNK下流のシグナル因子の活性化を促進すると考えられる。この結果から、BLNKがBCR複合体にリクルートされシグナル伝達が開始されるまでの新たな機構が明らかになった(Miyazaki et al., PLoS One 2012)。


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