日本語総説

 補助シグナル研究の現状と未来 / 総説・業績リスト

 免疫系は,多くの細胞が相互作用しあってその方向性を規定していく,複雑なネットワークである.そこでは,時間的・空間的に限定されて発現する補助シグナルが,分子間の相互作用を介して免疫反応を制御している.この補助シグナルが,各種疾患の病態形成にどのような役割を果たしているかを知ることは,発症メカニズムの理解,治療法の開発のために大変重要である。

補助シグナルとは
細菌などの病原菌の浸襲に対し、生体はまずマクロファージや好中球などを動員して、自然免疫によりその排除に努める。その際、マクロファージや樹状細胞は、異物を取り込み抗原提示細胞(APC)として、T細胞に抗原の情報を伝えることからエフェクターT細胞やB細胞を巻き込んだ、強力な獲得免疫が動き出す。また、T細胞は移植細胞上のアロ抗原や腫瘍細胞上の腫瘍抗原を直接、あるいは自己のAPC上に提示されたものを認識してその排除にいたる免疫応答の引き金を引く。さらに、胸腺内T細胞分化の過程においては、胸腺内のストローマや樹状細胞上の自己ペプチド認識しながら、免疫学的セレクションを受ける(図1)。

日本語総説図1
図1

 このように、T細胞は抗原を提示するさまざまな細胞との相互作用により活性化され、抗原特異性をもつ免疫応答が起こる。この際、抗原特異性は一貫して維持されながら様々な異なった種類の免疫応答が起こり、さらに、異物除去の目的を達成した後は、過度な免疫反応による組織破壊を防ぐために反応の収束をみる。このような、多岐に渡る免疫反応型は、T細胞とAPCとの相互作用の際に、抗原特異的レセプター、リガンド以外の数多くの細胞表面分子間を介したシグナルの交換により決定される(図2)。このようなシグナルを総称して補助シグナルを定義すると、現在、補助シグナルとして一般的に分類されている細胞表面リガンドからレセプター{CD28 ファミリー(CD28,CTLA-4,ICOS,PD-1)− B7ファミリー(B7-1,B7-2,B7h,PD-L1,PD-L2)、TNFファミリーレセプターファミリー(CD40,OX40,4-1BB, HVEM)− (CD40L,OX40L、4−1BBL,LIGHT)CD72−CD100等}以外にも、Integrinファミリーによる多くの接着分子群、さらにはサイトカインやケモカインによる誘導されるシグナルも補助シグナルに含まれる。しかし、本特集では紙面の都合上、狭義の補助シグナルにほぼ限って論じられている。
補助シグナルについては、T細胞についてよく調べられている。補助シグナルには活性型補助シグナルと抑制型補助シグナルがある(図2)。前者は抗原特異的な細胞のクローン拡大のための増殖、サイトカイン分泌によるTh1,Th2への分化,さらはCTLや記憶細胞分化を誘導し、免疫応答を発現する。一方異物の排除が終了し免疫応答を収束に導く際、あるいは、TCRの特異性が自己抗原に向けられ場合、抑制的補助シグナルが誘導されて抗原特異的なT細胞のアポトーシス、アナジーなどにより免疫反応が抑制される。このように、補助シグナルにより、それぞれの場面にふさわしい免疫応答が誘導され、収束に導かれることで恒常性が保たれるのである。

日本語総説図2
図2

補助シグナル研究の現状と未来
 免疫応答は病原微生物の排除や腫瘍化した細胞の除去といった生体防御機構として生命の存続に必須のものである。しかし、それが自己組織に向けられたときに起こる自己免疫疾患、過剰反応であるアレルギー、毒素性ショック、さらには、臓器移植片の拒絶や移植片対宿主病(GVHD)のようなわれわれに都合の悪い反応も起こす(図3)。このようないわゆる免疫病の治療は免疫抑制剤による免疫応答全体を非特異的に抑制する手段に頼っているのが現状である。これらの薬剤は腎障害や骨髄機能の抑制といった強い副作用のほか、非特異的免疫抑制は本来の免疫機能低下による日和見感染や、悪性腫瘍の高率の発生がみられる。本来、我々にとってかけがえのない生体防御機構としての免疫機能を保存し、都合の悪い反応だけを特異的に抑える免疫療法の確立は、免疫学を研究する者の共通のゴールである。

日本語総説図3
図3

 抗原特異的シグナルを人為的に制御する治療法は抗原が同定されている場合可能であるが、他の抗原には効かず、応用が極めて限られる。CD3などのTCR複合体の恒常性のある部分に特異的な抗体を用いた治療法も試みられているが、サイトカインストームやアポトーシスによるT細胞破壊の結果起こる免疫不全等が問題とされる。これに対して、補助シグナルレセプターそのものには抗原特異性、MHC拘束性はなく、レセプターを介するシグナルを人為的にコントロールする方法論を確立すれば、どのような免疫応答にも使用できる。表1には現在までに動物実験により示された、補助シグナル調節による免疫療法の可能性を示してある。

表1
日本語総説表1

 現在、新たな補助シグナリガンド、レセプターの探索、レセプターをかいする増強、抑制シグナル伝達回路の解明、さらには、補助シグナルによる遺伝子制御機構の解明などが、ベンチャー企業を巻き込み、世界中の多くの研究グループによりしのぎをけずって行われている。また、補助シグナル制御分子の有効な投与法の検討なども従来のマウスやラットによる研究から、ヒトへの応用を前提にした、サルを用いた研究が行われるようになった。米国では一部、臨床治験が進んでいる。これらの研究成果の蓄積が進み、補助シグナル療法が新しい免疫療法として、臨床の現場での免疫病治療のオプションのひとつになるのもそう遠い将来ではないと思われる。