武田研究室の研究テーマは、快適性の維持・増進、省エネルギー性などを目標とする、建築環境・建築設備的な研究から、熱・光環境の総合的な研究まで幅広い領域に渡る。以下に19年度の研究テーマの概要を示す。


光触媒実証実験棟の温熱環境測定
  担当:M2 稗田 4年生 風間, 柴田, 北條
 光触媒の酸化チタンは超親水性(水を膜状に広げる性質)を持つ。光触媒放熱外装部材とは、光触媒を建築外装部材・窓材表面に塗布した部材である。夏期に、この部材表面に水を少量散水して水の膜を形成させることにより、水の蒸発冷却効果により外表面温度を下げ、室内温熱環境および空調負荷の軽減を計る。本研究は、光触媒放熱外装部材がどの程度外表面温度低減効果および空調負荷低減があるのかを、一般的な事務所に相当する実験棟にて実測を行ない明らかにすることを目的とする。


光触媒部位実験とシミュレーション  担当:M1 吉岡 4年生 小林, 高島
 動的熱負荷シミュレーションプログラムに光触媒外装部材を組み込めるようにすることを目的に、光触媒外装部材の放熱特性の把握、外表面の水の物質移動係数・蒸発による熱伝達量などの熱物性値を定量的に明らかにする。本実測では、実証実験棟とは別の場所に光触媒外装部材を設置し、熱物性値推定のための精緻な計測を行なう。これは、実証実験棟における実測では、外装表面への送水量・還り水量などの精緻な計測が困難で、熱物性値推定に必要な諸実測値が(必要な精度で)得られない可能性が高いからである。なお、光触媒外装材は建物外部の鉛直外壁面に用いられると考えられるので、本実測においても試験片は鉛直に設置して実測する。


最近の異常気象に関する研究  担当:M1 大橋 4年生 石塚, 田中
 最近、日本国内でも世界的にも異常気象だといわれている。しかし、本当に異常気象なのだろうか。今年度は日本各地(代表的67地点を想定)の気象台で観測した長期の気温、日射量等の気象データを整備し、これら気象要素の経年変化より異常性を検討する。また、暑くなる都市気候は生活環境に及ぼす影響が大きいが、熱負荷計算プログラム(LESCOM)を用いたシミュレーションにより、気温がどの程度上昇すると、環境が人間にとってどの様に影響するのか。気候の変化とエネルギー消費量についてはどうか。また、室内温熱環境はどうなるのかなど気候が建築環境に及ぼす影響を考察する。


昼光利用及び照明検討の為の窓廻りの視環境評価法に関する研究
  
担当:M1 内山 4年生 笹川, 佐藤
 照明デザインや建築設計の分野でもコンピュータ技術の導入が進み、今後照明シミュレーションの重要性はますます増していくと思われる。武田研究室では、昨年度までに国際照明委員会(CIE)の国際昼光測定プログラム(IDMP)に基づく標準年気象データを作成したが、これにより年間を通した自然光による照明環境予測が実際に行えるようになった。
 本研究では、窓廻りの執務スペースの視環境評価のために、従来の机上面照度だけではなく、窓廻りの輝度分布を評価項目に加えて、新しい昼光利用及び照明システムの提案及び制御方法を評価するツールを開発していくことを目的とする。そのために上記の気象データを照明計算プログラム(Radiance)に組み込み、窓面・ブラインド面の明るさ・グレア(まぶしさ)評価などを行っていく。


遺伝的アルゴリズムに基づく建築・照明デザイン手法の確立
  
担当:M2 大好 4年生 中田

 一般的な建築設計プロセスでは先に建築形態を決めてから、最後に照明を仕込んでいく例が非常に多い。しかし、本来は望ましい照明環境を先に想定し、それに合わせて建築形態・開口部形状を考慮していくべきであろう。本研究では、理想的な照明環境を先に決めてから、そのための建築形態及び照明手法を決定していくために手法−いわゆる逆問題解法−の確率を目指す。具体的には遺伝的アルゴリズムを利用していくことになる。この手法が確立されれば、例えば望ましい光環境を実現するための形態モデルを設計段階で建築家に提供することや、あるいは照明環境のラフスケッチをもとに照明器具の設置方法をコンピュータ上でもとめていくことが可能となろう。


現象としての光の工学的条件に関する研究−空間色の表出条件の解明−
  担当:M2 鈴木, 園家 4年生 小松, 本橋, 山本

 ここ数年建築分野においては光と素材への注目が著しい。特に建物表層の物質性を消去するというテーマと密接に結びついているが、そのような試み自体は実は古くから様々な建物において実践されてきたことである。物質の素材感を消去し「光」を表出させるためには、もの本来の特性:明度・粗さ・色・形などの近くを不安定にする必要があり、そのためには光・照明のコントロールが最重要課題となってくる。これまではその定量的・工学的な説明の試みはほとんどなされていなかったが、近年の視覚心理学における研究の進展などにより工学的に「光」表出のための解を与えることが可能になりつつある。
 本年度はその中で特に空間色に着目する。空間色とは霧が充満しているような見えである。実際の建築空間においては、本物の霧が存在しなくても照明と素材のコントロールでそのような見えを作り出すことが可能であり、非常に興味深い現象といえる。空間色を取り上げることにより、メルロ・ポンティなどの現象学を通して建築空間における光の意味を再検討すると共に、ウェーブレット解析を応用したエッジ強さと空間色との関係性を明らかにしその表出条件を探っていく。


頸髄損傷者の温熱環境に関する研究  担当:助教 三上
 頸髄損傷とは、交通事故やスポーツ事故などにより強力な外力が加わって骨折、脱臼した頸椎(首の骨)により、頸髄(首の部分の脊髄)に圧迫や挫傷が起こり、頸髄が損傷されることである。損傷した頸髄以下の支配領域は、脳からの命令が伝わらないか、不完全に伝わるため運動機能が麻痺する。また、末梢の皮膚や筋などの知覚の情報が損傷頸髄で断たれ、脳の感覚野に達しないことから知覚機能も麻痺する。
 建築計画、住宅設備、自助具、装具、生活援助機器、自動車などの分野では、頸髄損傷者(以下頸損者)の行動面での不自由さや介助者の負担を軽減する技術の研究が積極的に行われている。しかし、頸損者は自律神経機能障害の一つとして、ほぼ全身に及ぶ発汗障害、四肢末梢部の血管調節障害などの重度の体温調節障害を持つため、今後頸損者には行動面だけではなく、温熱環境への配慮が必要である。本年度は頸損者の定期的な運動が温熱環境適応能力に及ぼす影響について検討を行う。

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