【研究背景】
   疥癬は皮膚角質層に寄生するヒゼンダニによって発症する。潜伏期間が長く、特に免疫力の低下した高齢者では重症化し、気づいたときには
   集団発生しているという問題がある。イベルメクチン(ストロメクトール)は全身塗布の手間がかからない唯一の内服薬であるが経管投与した
   症例では有効性が劣るとの報告がある。

【研究目的】
 ○簡易懸濁法
   近年、経管投与を行う際には、経口投与と近い状況で錠剤を投与できる「簡易懸濁法」が普及しつつある。そこで、イベルメクチンを簡易懸濁法により
   経管投与する場合にはどのような因子が有効性に影響するのかを検討した。
 ○動物実験
   動物実験により、イベルメクチンの体内動態を調べ、今後行う予定の臨床試験の基礎データの収集および試験方法の検討を行う。
 ○臨床研究
   イベルメクチンは脂溶性が高く、食後投与時のAUCは空腹時に比べが2.57倍高いという報告がある。しかし日本人における報告はない。
   そのため、薬剤師主導の臨床研究を行い、そのエビデンスを構築する。

【研究内容】
 @簡易懸濁法による経管投与手技の注意点について
    投与するシリンジの種類及び投与手技、崩壊懸濁する温度の異なる条件で、簡易懸濁法後の薬剤回収率を測定した。
    この結果、投与量を確保するためには再使用のシリンジを用い、薬剤注入角度を45°以上とし、投与後にシリンジの洗浄操作を行う事が望ましいと考えられた。
 A簡易懸濁法の手技の現状調査
    @の研究から、簡易懸濁投与手技による様々な要因よって薬剤が大幅にロスすることがわかってきた。
    そこで、臨床現場での簡易懸濁法の手技の現状を知るためにアンケート調査を行った。
 B動物実験(食事による影響)
    ラットにイベルメクチンを投与し、それぞれの食事の状態(絶食、普通食、高脂肪食)による血漿中濃度の変化を調べる。
 C臨床研究
    臨床試験計画書、被験者向け説明文書などを作成し、倫理審査委員会に申請予定である。

【今後の予定】
   ○簡易懸濁法(経鼻チューブ通過試験、アンケート調査の追試)
   ○動物実験(食事に関する影響の本試験、皮膚・皮脂中濃度の測定法の検討)
   ○臨床研究(ストロメクトール錠の空腹時投与と食後投与の血中動態に与える影響に関する研究)

【この研究のやりがい】
   イベルメクチンの適正な投与方法を早期に確立し医療現場に普及させることで、疥癬患者の速やかな治癒とともに医療者の負担を軽減することが可能である。
   臨床の場で現在する問題に貢献できる点で魅力を感じている。