必要な時に、必要な部位へ、必要な量の薬を送達する
ドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発をメインテーマとしています。
DDSは現在、 薬物の吸収改善と、放出制御、ターゲッティング(標的指向化)の分野で
盛んにR&Dが行なわれていますが当研究室では前者の2つに特に力を傾けています。


1. エレクトロファーマシューティクス

薬物吸収を促進する物理化学的な方法の中にイオントフォレシス (IP) や、エレクトロポレーション (EP) という手法があります。IP はイオン化した薬物に電場をかけ、泳動力によって薬物の輸送を促進する方法でエレクトロオスモシス (EO, 電気浸透流) の寄与により、荷電をもたない物質の輸送促進も期待されます。また、EP はμ〜ms オーダーの高電圧パルスの印加によって細胞の脂質膜に揺らぎを与え、遺伝子などの透過性を高める方法です。当研究室では直流の代わりに正弦波交流を印加する交流 IP や EP が結腸膜に与える影響などを研究し、非常に興味深い結果を得ています。
さて、体内に入り薬物動態を制御できるインテリジェントDDS は、生体適合性を有し、作用部位へのターゲッティングと推進機能、微量薬物注入ポンプ、濃度センサーと放出コントローラーへのフィードバック機構を併せ持つ必要がありますが、このようなシステムを実際に構築することは非常に困難です。そこで、第一歩として微小針によるインスリンの IP 注入デバイスを研究し、良好な血糖降下作用が得られました。中空微小針は経皮輸送の律速部位となっている角質層をバイパスし、しかも非常に細ければ痛みを感じさせない利点があります。さらにグルコースセンサーを持つ RIP (逆イオントフォレシス)デバイスと組み合わせて、フィードバック機能を持つ経皮吸収型人口膵臓を作っています。

2. 糖トランスポータを利用するペプチド性薬物の DDS

近年、肝臓や腎臓、脳、小腸などに種々のトランスポーター (TP) が存在し、内因性物質の生体膜輸送ばかりでなく、投与された薬物の輸送にも関与しているということが明らかにされています。小腸には SGLT1 という、グルコースを Na+とともに共輸送する TP があります。栄養素である単糖を体内に取り込む重要な働きを担っているこの TP を、通常では吸収されにくいペプチド性薬物の吸収に利用できないだろうかと考えました。アミノ酸 TP や PEPT1 などの TP により能動輸送されることが知られていますが、これ以上のサイズになるとほとんど吸収されません。そこでテトラペプチドにグルコースを修飾したグルコシル化ペプチドを合成してみると、SGLT1 を介して取り込まれることがわかりました。糖に引きずられてペプチドも輸送されたことになります。同様にテトラガストリン (アミノ酸4個) や LE-エンケファリン (アミノ酸5個) もグルコシル化により輸送されますが、サイズが大きくなるにつれて輸送量は少なくなることがわかりました。現在は cDNAから SGLT1 を発現させた系を用いての研究や、フルクトースの TP である GLUT5 の利用を検討しています。

3. 吸収促進剤による鼻粘膜、腸管、経皮吸収の促進と作用機構の解析

薬物の吸収を化学的に促進する方法として吸収促進剤の併用があります。当研究室では企業との共同研究により、ピロチオデカンや4-イソウロピルトロポロンなどの作用を調べています。前者は鼻粘膜や腸管粘膜の密着接合 (Tight Junction: TJ) を開口して細胞間隙を経由する薬物透過を高めるほか、小腸上皮細胞粘膜側に存在する P-糖タンパク質 (P-gp) の機能を抑制することがわかりました。P-gp は基質となる物質を粘膜側へくみ出すため、この機能が抑制されると粘膜から吸収される薬物の輸送が亢進されることになります。



   体内に入り薬物動態を制御できるインテリジェントDDS を開発することは非常に難しいと考えられます。しかし皮膚上(体外) や体内埋め込みシステムを構築し、マイクロ化することは可能です。近年、マイクロマシニングや超微粒子を作るナノテクノロジーが長足な発展を遂げており、DDS へのこれからの応用が期待されています。
   平成15年4月、薬学部は野田地区に移転し理工学部、基礎工学部、生命科学研究所、ゲノム創薬研究センターなどを含めたバイオ・医薬の一大リサーチセンターが出来つつあります。このような環境の下で、インテリジェントな DDS を剤形として実現することを目標として更に研究を続けたいと思っています。