乾燥した舌 膨れあがる街の扁桃

白い道を歩いているひよこの足 死体の裏側に咲く花

温室の中で時間が一回分裂する

身元不明の風が地球の重力に引かれている

私の魂は月に向かって1センチずつ伸びている

もつれた脈拍が 屈折率の異なる空間に伝わっている

度の強い眼鏡をかけた虫が血液を吸っている

声が代謝される 不安定な耳

手を抜かれている双生児の空間 誰も知らない歌謡曲

 現在の前後が裏表になる 腑いている裸のマネキン 難民の白い手

 顔を撫でる 混乱するラジオ 短く中寺している 空間が脱水する

直線化する 不完全な人体

未分化で女に対応しない 子供に近似される

染色された意味 それは時間に依存している 結晶化している

 走査線の向こう側に広がる大脳皮質 

貼り付けにされた 痒みがとまらない

冷たい精液を分泌する青い舌

スローモーションのかかったインコが空を飛んでいる 死んでいる

墜ちていく

凍った花に幸福が訪れる

 過去に繋がる中古の夢 脳炎の闇 時々痙攣する言葉の微量な拡散

 視界が黴をふいている 体中が汚水処理される

密造される季蹄とは無関係な憂鬱

体中をネコが走り回る 有害な寿命の伸び縮み

 人間が交換される 赤血球が空気に充満している

 危険な信号が鼓膜を震わせる

事物の二面性が解離する 「私」に汚染された地下街

遠くで星が爆発する 地下を走る風

 近くで死者の声がする

月を見つめすぎて 盲になった

星から風が吹いてくる 笑いがこだまする 大気中の酸素が欠乏する

人間の中から痴的な虫が滲み出てくる

原体験のない 血液が沸騰する

まんじゅうが時速を持っている 北を指す指

 

 

 

 

腐った魚が血液の中に浮いている 魚の鰓を通して呼吸している

魚は体の深い所へ潜水していった

細かく衰えていく 級慢な脱分極が始まる

 空席に水が溢れる

意味のない予防接種 降神術 子午線から離れるアザミの花

立体的な霊感 スピリチェアルな声帯

ピルビル震える インコのくちばしを取り付ける

潜在的に雨が降る 全部市の停電

 漂白される悲劇的な交信

舌が回らない 会話は成立しない 意味が分解されている

時計のネジをまききる 差し上げられた両手が何かを掴む

エゴンシーレ感覚の人物 録画される水銀の原子番号

鳥が低空飛行する霊感の迷路

機械的に時間が過ぎる疾病の空白 水栽培される豚の足

 顔面に血管が浮かんでくる ゆるやかな拒絶 目をキョロキョロする

傷口に咲く蓮の花

うっかりしていると卵がかえってしまう 卵がかえる前に検算する

時間を培養するメトロノームの音

位相の異なる音の中にはいっていけ 脱ぎ捨てられた衣服

   四肢の関節を外し心に入る 会話脈縮がはずされて

 一日の中の一秒が消失する

バイオリンがばらばらになって音に接近する

とさかをつけて歩く子供達 彼等に考証が微分される

 女が眼鏡をはずす 話が通じない

 右左 境界がはっきりしない思考が液体に滋けている

生まれなさい 生まれなさい 共感のない世界

接触のない孤立した指が方向を示している

たてつずけに爪が伸びる新しい遠心力 言葉じりに差し込まれた

希釈されたピアノの打撃音

皮膚の下のだるい指の動き 点滅する過去 止まり木に止まる

誤差の中へ ひび割れ 砂浜に打ち上げられる死体 

 脱水された愛情 不変の温度が漂う

 消耗するテレパシー

トイレに腰掛けたまま 成仏している少年の体に タコの血が流れる

息を吹き込む 寝言を録音する

 ギョロ目の少年にお姉さんと呼ばれて 貧血する

 向日葵がグイグイ伸びる ギザギザの水 濃度勾配にしたがう

蝶が麻酔されて 空中にはりつけられる

冷気が渦巻く 性的興奮が解除される 解禁される

糖尿病のあめふらしがヌルヌルする 狂気の円周率

道端で卵を生み付けている 慣習が取り外された日常 球形の眠り

マニキュアの指に 指先が続く 田園が一面に出血している

百姓の物理 南に向かって走る ささくれだった流行語

都会に生育する心身症 21世紀の降水確率は変化しない

陽極と陰極が溶け込む円の中心

口述筆記される手話の世界

 

 

 

 

副作用のネコ

グルグル喉をならす かちかちの凝固

心臓の鼓動が一回欠ける 転調する 影が複雑に張り付いた 暗い光

自虐的な 遺言は残される 内面に死斑がでる 背中の逆三角形の痣

暗流する不眠の都市

バイリンガルの少女 不定期な脱力

 入門書がはらばらにされて操作されている

  焦点があわないイヌにかまれる

 不安が蜘蛛の巣に引っ掛かる

 ハエ叩きで叩きつぶすしかない

 吹き替えられた神様の声 水溜まりを越えるウサギの耳

 時間がゆるい 強力な寄生虫が月からやってくる

 極彩色の沈黙 植え継がれる価値観の内部 歯がぼろぼろ抜け落ちる

 不条理な笑いがミカンの皮を剥く

 魚の足をした天使

 静脈を見せる鋭角の街路

 波動のみが存在する 常軌を逸した三人分の昼食

 脳の中の空洞で足のはえたヘビが2回いじめられる

 全体性の存在しない 黒板に書き散らされた数式

 癌化する風景 昆虫の触角をもぐ

 

 

 

桜が満開 狂気の花 萄が混入する

 デジタルの視覚 脳神経に支配された6時30分29秒

 右の眼球が眠り始める 整理された指紋 お守りを解体する

 印字される鮒の踊り

 手が全身に拡散する 電池の切れた小指が這い回る

 ザクザク花が咲いている 三角形の太陽 舌が出てくる

 遠近法の混乱したモデル ある形が欠けている

 省略された関係 収縮する女の体 偶像を崇拝する

 きっかけが分類される 一枚の鏡像体

 射精するアイドル 朝のラジオ体操で狂った男が包丁を振り回す

手のつけられない知的な固体の時代

 世代交代の激しい死体にキノコがはえる

 思い詰める花屋の天使 囮の花 傷だよ 傷口

くだかれた歯が生える土地 不毛の地下

電池のきれた 中空の正二十面体が盗聴している

 唇を読み取られる 唾液の過剰分泌

 なぞの中 なぞは解けない なぞかける

 絃末の大仏 魚の骨をえり分ける

 病人は治らない道を遠回りする 刑務所で時間が道草をくっている

 出会を慎重に回避する進行形のディープキス 

黒のストッキング あいかわらずね

小指が這い回る 声が糸を引く マユを作る 蛾が孵化する

振り付けられた 論理に血縁関係はいらない

 

 

 

重くて飛べないトリ

等身大の鏡がうめこまれた 馬を発電する

 調律してください

餅を食う一匹のおたまじゃくしを追って

 殺虫された魚屋ワルツ

その場で足踏みをしているような 砂楊で保護色を使うのは誰だ

心の夏至へ箸を突き立てる

頭蓋骨には穴がプスプス空いていて局所的な快晴 梅雨が始まる

 この暗号をすはやく身につける

 わたしとおたまじゃくしのどこかが重なりあっていて

 雨上りには虹が懸かったりする

 砂糖の過剰に溶けた風景で 血が薄くなっていく

 目の前で手を合わせる 老人が合成される場所 言葉を覚える口がある

 窓ガラスにひびが入ってくる 平和が血溜まる傷口に塩を刷り込む

 液体の生物を飼う 赤外偏光してくる声

 太陽に向かって透かされた手の平に狂気が整列している

 声が細胞分裂しているのか わたしは気が速くなりそう 帰らなくっちゃ 欲望が消煙されている 刻印された顔 人相がはずれる さよならの合図

 石油を飲みたい

  句読点をつけられた歌手 子供が突然つんのめるように倒れる

 閉まっていたはずのドアがスルッとひらく

 早回しで時間が病んであちこちに虫食れができ

 虫歯のような痛みが走っている

くちばしを顔に取り付けて泡をくうんだ 

 雨に濡れる扇風機 歌を歌いながら歩いている

 小鳥屋のインコが寄り集まっている 漢字の書き取りがしたい

 宇宙人みたいな顔をして 地下鉄の吊り広告をかたっぱしから読んでいく

音と絶交する 巻き舌を使う宇宙人

 小鳥の足の指を数えるが きまって3本しかない

有機物の月

論埋の代わりにに物理を使う 防水された肉体

あっちいけ あっちいけと鳥が鳴く

 義眼を入れ替えて 人形を刺身にする ウラウラする二本の足

 骨抜きにされて泡をふいている入れ墨

観念が押し花にされている 仏にせまる高級な茹で卵

命を速記する近視の死者の水晶体

 

 

 

床一面にメリケン粉がぶちまけられ

そのうえで、男が転げ回っている

後ろには黒ずくめのコンピュータープログラマーがサックスに脅えている

狂い始めた夜

魚の頭が無数につまった乳母車にひとりの気違いがはいりこんでいる

舞台でゲロを吐きころげる男達 オカルティストがギターを壊す

 ピアノの鍵盤をもぐ 狂ったタコの世界

もうやめようよ ボロボロのトラッシュ

世界中のどこにも存在しない半音階の一画

右回りに狂い始める女達 ラリッた男が震えてる うじ虫達の巣

 終わりがない歯ぎしり

 マイナーの真実 宇宙人の身の上話

 切り取られた手首が這い回る それは俺の指だ 二重に空回りする

 音が体を震わせる 内耳が破れる 毛穴が開く 神経が部屋中に伸びる 「仏像、仏像、退屈、退屈」

宇宙人の声が大きくなる 頭が溶ける 田植え 剰余価値分解工場

黄色い痛み

幼虫が変態する一秒 吃りの歌手

 その歌手は右手をゆっくり上げる 左手は地面をついてきた

 こぶしの中に石があって

 二度と始まらない音楽

 毛穴から虫が這い出してくる

 螺旋系の音が人の形に揺れている

 鳥が記号になって焼け落ちる

 霧箱の中 偽物と本物がつがいになっている 視線が付着する

 網膜に鳥の足跡が残る

 子供の手の中で眠る そろばんをはじく

詩的言語の根絶をめざす子供の文体

消印のない 子供は作り直される 隠語を使う 信号機の赤 タイマーがセットされる 記号化されない寝言

同じことを頼り返している 気の遠くなりそうな午後

誰も腐り始めた昨日の記憶から抜け出せない

振り切れている サックスの音

 ブレーキをかけたままアクセルを踏みつける

 過剰な静止 加速された停止

 喉笛に 窒息のサックス

 バケツー杯の沈黙 細い足首にいけ花

 オクターブを越えている 奥歯を噛み縮める

一回きりの悪夢 360度の視野の中に十字ができる

死期を計算する 死滅した日光は光合成を拒否する

 瞳を閉じない魚 透明な冷却 単音の夢 みない

息を止めたまま空気が焼けこげてアスファルトの上を這いまわっている

 トラシュの階段を二段降りる 一段上がる タンゴのステップ

エセ学者は天然記念物の女を連れて歩く

ビニール袋に包まれた 青空一面の 視力が回復する奇跡

音が急激に空間から一本ずつ抜き取られて 抜け藷ちた坊主の頭

直進しない時間

死角が形成されている 錯覚と幻覚 時間が巻き戻されている

体重計の上で育つ子供たち

仏壇返しの海 沈黙を支配する 紫外の原理 常軌を逸脱する 分身が横行する 両立する矛盾

落下しつつある透明な太陽 七色に分けられて白痴が歩く

水で希釈される

赤いセルロイドごしに ガスが漏れている

夏至はすみやかにやってきた 鼻血をだす死語の山

言葉を食い殺す言葉の共食い効果

動く刺青 神経質なサリドマイド

 

The depth of Ryo Goitsuka