建築外装材料の選定支援システムtexGAの開発に関する研究

research member
M1 西川葉志乃
B4 齋藤祐也
B4 市村修平

1.はじめに

建築基準は,従来の仕様規定から性能規定へと移行しつつあります.仕様規定は,従前に構法や材料の仕様のみを規定したものであり,それらの構法や材料を使用していれば,結果として建設される建築物の性能に関しては不問とするものでした.それに対し性能規定は,最終的にその建築物の性能が規定を満たしてさえいれば,そのプロセスは一切自由とするものです.この建築生産プロセスの自由化には,新構法や新材料の開発,消費資源の効率化,及び経済的合理化などの効果をもたらすことが期待されています.しかし性能規定化にはいくつかの問題点が指摘されています.主なものとして,性能規定化の達成が建築設計をより難解なものにしてしまう可能性が挙げられます.これは,これまでの建築設計業務では,規定を満たした構法や材料を選択することが主要な作業であり,最終的な建築物の性能を計画的に設計する作業が行われてこなかったためです.本研究が開発を進めているtexGAは,性能設計支援システムの一つであり,現在でも非常に不自由な手法に依存している建築外装材料の選定作業を,合理化・容易化するためのエキスパートシステムです(fig.1).




fig.1 仕様規定と性能規定の概念図
2.texGAとは

先述のとおり,texGAとは性能指向型の建築外装材料選定支援システムのことです.システムの特徴としては以下の2点が挙げられます.
@.素材による物性値だけでなく,表面粗さや表面形状,視覚的印象などを考慮し,建築外装材料を総合的に評価している点
A.建築物の発注者や設計者が要求する諸性能に対しての最適解を導出する際に,遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm:GA)を用いている点
遺伝的アルゴリズムとは,生物の進化のメカニズムを模擬した最適化手法であり,近年では様々な工学的問題への適応が試みられています.遺伝的アルゴリズムは,まずランダムに初期世代を生成し,それらを2進数に置き換えます.そして予め与えられている要求性能に応じて選択,交配,突然変異と呼ばれる演算を繰り返し行い,最適解を導出します(fig.2).

 
fig.2 生物の進化過程と遺伝的アルゴリズムを用いた最適解の導出過程
3.texGAの種類

建築物の生産プロセスにおいて,性能指向型の外装材料の選定システムが有用となる局面は一つとは限りません.またその局面ごとにユーザーの要求が異なることは明らかなので,基本的なシステムは同じでも,texGAにはそれらの局面に対応したインターフェースを用意しておく必要があります.fig.3に主だった局面と,その使用方法の概略を示します.まずtype.1は最もオーソドックスな使用方法であり,市販されている外装材料のデータベースとその検索システムとして使用されます.type.2やtype.3は,type.1と比較すると,より創造的な使用方法となっています.しかしこの2つを開発するにあたっては,外装材料の表面形状や素材の性質と,性能値との関係を精緻に明らかにしなければならず,システムの実現までには多くの知見が必要となります.したがって当面はtype.1のtexGAを実現することを目標としています.

fig.3 texGAの適用例
4.テクスチャの表面形状の抽出と合成

texGAを構築するにあたり,その間に必要となる作業は主に以下の4点です.
@.要求条件の整理・定量化
A.材料性能の予測・定量化
B.性能に対する評価関数の決定
C.システム面の整備
昨年度は,上記Cのシステム面に関して試行的な研究を行いました.まず3Dスキャナを用いてテクスチャの表面形状を抽出し,2次元フーリエ変換と呼ばれる関数近似手法を用いてその表面形状を定量的な記述へと変換しました.2次元フーリエ変換の結果は,PSP(Power Spectrum Picture)と呼ばれる画像で示されます. PSP画像上にプロットされている点は,明度,中心からの距離・方向によってそれぞれの含有成分の状態を表しており,元画像の特性の全貌を把握することができます.その後,PSP画像の足し合わせ,及び逆2次元フーリエ変換を行うことで,新しい表面形状をもったテクスチャを創出することができました.以下にその流れを示します(fig.4,5,6,7,8).


fig.4 接触式3次元スキャナを用いて表面形状のスキャンニングを行う
fig.5 テクスチャの表面形状の特徴量を得る
fig.6 3Dデータを真上の視点から眺めた画像を得る
fig.7 2次元フーリエ変換を行いPSP画像を得る
fig.8 PSP画像を足し合わせ逆2次元フーリエ変換を行う
fig.9 3Dデータを出力する

5.今後の展望

本研究は,性能設計支援システムtexGAの開発を最終的な目標としています.現在は市販されている外装材料の表面形状,及び物性値の採取,またシステム構築にあたっての試行的なプログラムの作成を行っています.またtexGAの開発にあたっては表面形状に関連する多くの知見が必要になることから,本WEBページ上で紹介している建築材料の表面形状に関する一連の研究と連携をとりながら開発を進めています.

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