research member
M2 藤原 大輔
B4 原内 優次

1.はじめに

コンクリート構造物の耐久性を脅かす劣化現象として,中性化や鉄筋の腐食などがあり,これらの劣化現象は同建物において仕上げの種類などの内部条件や,気温,湿度,雨がかりの有無といった外部条件により局所的にばらつくことが分かっています.これらのばらつきをどのように評価するといった,標準的な劣化外力を定めることは,高度化しているコンクリートの耐久設計において今後ますます重要になってくると思われます.しかしながら,精緻な環境評価の報告は少ないのが現状です.そこで,本研究では,精緻な環境劣化外力の定量を目的に,局所的な温湿度がコンクリート構造物の耐久性に与える影響を検証するため,実構造物の方位別・高さ別に局所的な温・湿度を測定し,中性化深さとの関係を明らかにしました.
 

2.研究概要
2.1 実験概要


今回の測定対象物の概要をtable.1に,測定項目についてtable.2に,測定対象物における測定箇所についてfig.1に示します.方位別・高さ別に計36点の小径コアの中性化深さを測定するとともに,10月29日から11月19日までの期間,中性化深さを測定した近傍におけるコンクリート内,外部の温・湿度を実測しました.


table.1 測定対象物の概要
table.2 測定項目

fig.1 測定箇所詳細

2.2 測定方法
(1)温湿度の測定
コンクリート内部と表面の温・湿度測定に関してはfig.2に示す測定器で行いました.ここでコンクリート内部の温湿度測定に関しましては,測定方法による測定誤差が懸念されたため,事前実験による適切な測定方法を検討した結果,fig.3に示す埋設方法を採用しました.


fig.2 測定器仕様

fig.3 埋設方法
(2)中性化深さ
中性化深さの測定は小径コアにより行い,JIS A 1152に沿って内径24mm,長さ50mm程度のコアを温湿度測定箇所近傍から採取した直後,1%フェノールフタレインを噴霧し測定を行いました。

3.測定結果
3.1温湿度測定
温湿度の測定結果の期間中の平均値を測定箇所ごとにまとめたものをtable.3,table.4に示します.内部温・湿度の共に同建物においてばらつきが見られ,最大で温度で3℃,湿度で35%RHの差が見られました.
table.3 各測定箇所における平均温度まとめ
table.4 各測定箇所における平均湿度まとめ
3.2 中性化深さ
中性化深さの測定結果をtable.5に示します。方位毎に見ると南側が最も大きい中性化深さを示しました.また,高さ毎に見ると高さが高くなるにつれ中性化深さも大きくなる結果になりました.
table.5 各測定箇所における平均中性化深さまとめ

3.3 コンクリート内部の温・湿度と中性化深さの関係
コンクリート内部の温・湿度と中性化深さの関係を式(1)に示す和泉式により検証しました.しかし,ここで係数のR4とR5以外はコンクリートの品質に関わる定数であるために厳密には与えることができません.そこで,局所的に求めたR4・R5の平均値に対する各地点のR4・R5の割合を中性化比率と定義し,各地点における内部温湿度と中性化深さの関係を検証しました.各測定箇所における中性化比率と実測中性化深さの関係をfig.5に示します.局所的な内部温湿度を用いて算出した中性化比率が最も実測中性化深さ相関が見られ,中性化比率の影響による中性化深さの増減を捉えることができました.このことより,中性化予測に際しては,中性化に及ぼす局所温・湿度状況の影響を検討する必要があることが示唆されました.
fig.5 各方位における中性化比率と中性化深さ

4.今後の展望
今回は,中性化のばらつきを温・湿度の測定から検証していきましたが,コンクリートの品質などの他の劣化要因による影響も懸念され,今後はどこの部位にどの程度の劣化外力が働いているかという標準的な劣化外力の定量化を目指していきます.

 

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