資源循環シミュレーションシステムecoMAを用いた環境影響評価に関する研究
research member
M2 岩田 彩子
B4 近 玄米


1.建設産業における環境影響評価の必要性

現在,建設産業からの環境負荷量は大きく,環境影響因子の削減は重要な課題となっています.そのため環境負荷低減を目的とした新技術の開発や,政府による施策が実施されていますが,これらの負荷低減効果を適切に評価する手法は確立されていません.これは建設産業の資源循環が地域的な広がりと時間的な重なりを有する複雑な系において成り立っていること,地域ごとに異なる制度・慣習が存在し,様々な方針を有する企業が混在していることなどによるものと考えられます.そこで円滑な資源循環の系を確立するために,これらの建設産業の特性を考慮した環境影響評価手法の構築が求められています.

2.ecoMAを用いた環境影響評価

このような要求に応えるために,本研究ではecoMAという資源循環シミュレーションシステムの開発を行っています.これは,さまざまな工場の生産規模・設備機能・位置情報などに基づき,マルチエージェントシステムと呼ばれる意思決定モデルを用いて資源の循環をシミュレートすることで,環境影響因子を多角的に評価するツールです.ecoMAの独創性としては以下の3点が挙げられます.
@ 社会的要因をモデル化
ecoMAでは政府の環境政策や,企業の経済的・環境的視点に基づく意思決定により変化するマテリアルフローをシミュレートすることが可能となっています.これにより,企業や産業団体が示す個別の方針を評価に反映することができます.
A 時間的要因をモデル化
ecoMAでは構造物の建設・解体に伴うマテリアルフローの時間的な変動を取り扱う枠組みを構築しています(fig.1).これにより,現実社会を長期的なスパンで眺めたときに生じる新技術の開発や,建築物の平均寿命の変化といった出来事を想定し,評価を行うことができます.

fig.1 実社会におけるコンクリートに関連する資源循環

B 地理的要因をモデル化
工場の立地や需要発生の地理的分布を適切に評価するための基盤として、実空間情報に基づくモデル化を行っています(fig.2).また,地理情報システム(GIS)を導入し,輸送にかかわる距離を実際の交通網情報に基づき計算します.

fig.2 東京圏・道央圏の評価対象領域

3.研究成果

ecoMAを使用することで,これまでに以下のような解析結果が得られました.
@ コンクリート構造物の長寿命化・延命化による解体コンクリート塊の発生抑制効果に関する将来予測
東京圏では,将来,路盤材としてリサイクルしきれない膨大な量のコンクリート塊の発生が危惧されています.そこで東京近郊100km四方(fig.2)における2000〜2050年の50年を対象として,コンクリート構造物の長寿命化・延命化による解体コンクリート塊の発生抑制効果に関する解析を行いました.その結果,構造物の寿命を200年に延ばすことで,有効利用されない解体コンクリート塊の量はかなり削減できることが予測されました.が,それでも2020年には現在よりも500万トン程度増大することが示されました(fig.3).
A 生コンクリート工場の集約化に伴うCO2排出量の削減効果
北海道では,建設需要の落ち込みにより工場の稼働率は低下の一途をたどっており,工場運営の合理化や集約化が検討されています.そこでCO2排出量の削減を目的とした工場集約化シナリオを評価しました.北海道の道央100km 四方(fig.2)を対象に,生コンクリート工場の集約化に伴う製造エネルギーの削減効果,および運搬エネルギーの変化に関する解析を行った結果,製造エネルギーと運搬エネルギーがトレードオフとなる最適な工場集約率は30%であるという結果が得られました(fig.4).

fig.3 建築長寿命化の廃棄物削減効果
fig.4 生コンクリート工場の集約化に関する解析結果
B コンクリート関連産業から発生するCO2排出量の地域分布
コンクリートに関連する産業からの環境負荷の排出に関して,これまで地域的な排出状況の把握は行われてきませんでした.そこで,首都圏と北海道の2地域を対象として,地域内のコンクリート産業の資源循環によるCO2排出量を求めました.その結果,地域によりCO2排出の形態には違いがあることが明らかとなりました(fig.5).


fig.5 コンクリート関連産業からのCO2排出量分布

4.今後の課題

多様な輸送形態や副産物のフローのモデル化,構造物の寿命予測による建設系廃棄物排出量の推定などを行い,より細やかな評価の実現を目指します.また,さまざまなシナリオを設定し評価することで,環境負荷低減のための効果的な施策や技術開発に関する提言を行いたいと思います.


5.Links
本研究は東京大学野口研究室、首都大学東京橘高研究室と共同で行っています。

・東京大学 建築学専攻 野口研究室
・野口研究室が作成したecoMAのページ
・首都大学東京 建築学専攻 橘高研究室



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