研究紹介

防災・減災に関する研究

 近年,自然災害の発生の増加に伴い,地震と津波・地震と洪水といった複数の現象が同時または同時期に発生する「複合災害」の危険性が指摘されています .1つの災害のみであれば機能する対策も,複合災害の場合十分に機能しないことがあります.例えば,地震によって堤防が沈下すると,普通防ぐことが可能な水位の高さでも越水が発生します.さらに,亀裂や段差が発生した場合は,そこが弱点となり越水時に堤防がその機能を失う危険性を増加させます.水理研究室では,本学所有の加振装置付き中型実験水路を用いて河川(海岸)堤防に発生する地震や津波を想定した実験を行い,堤防の複合災害への耐災害性について検討しています.


 地震・洪水の複合災害実験
 地震・津波の複合災害実験



 近年,集中豪雨の発生に伴い施設能力を上回る洪水や地震と洪水が同時期に発生する複合災害によって,現行河川堤防では防ぎきれない災害が発生しています.そのため,複合的な外力に耐えうる,耐越水性・耐浸透性・耐震性堤防を有する,薄層ドレーン強化(LDR)堤防を河川堤防強化技術として提案しています.



 越水・浸透対策として有用なGRS工法とドレーン工を組み合わせ,現行河川堤防に拡幅として補強可能なLDR堤防は,現行河川堤防の裸堤や補強工法である天端アスファルト舗装よりも高い耐越水性を有することが実験的に証明されています.これより, LDR堤防は,越流開始150分を経過してもほぼ初期形状と変わっておらず,粘り強い構造であることが分かっています.



 都市型集中豪雨を予測するためには,まず都市の存在が気象場にどのように影響するかを知る必要があります.都市では,建物などによって日陰ができ,放射が吸収,反射,そして散乱するなど複雑なやりとりが行われているからです.そこで,本研究では,海風の侵入と都市との関係に着目し,数値シミュレーションを用い都市の影響を評価いたしました(図5).また同時に,都市型集中豪雨とは異なる集中豪雨へのアプローチとして災害発生時の豪雨を,数値気象モデルWRFを用いて再現する試みを行っております.入力データの精緻化やデータ同化等を用いて再現性を向上させ予測精度の向上にも繋げて参ります(図6).


①2018年西日本豪雨
②2017年九州北部豪雨
③2016年岩手県豪雨
④2015年関東・東北豪雨
⑤2013年伊豆大島豪雨
⑥2013年山口島根豪雨


 洪水災害に対するソフト対策の一つとして,河川における高密度の水位観測ネットワークの構築と高精度でロバストな洪水予測システムの整備が挙げられます.本研究室では,多地点水位データ同化を可能とする力学的な河川流計算手法(DIEX-Flood)の開発を行っています. 本手法により計算区間における水位縦断分布の現況推定が可能となります.また,本手法とAIによる将来水位予測技術を組み合わせることで,将来時刻の水位縦断分布を予測する新たな洪水予測システムDIEX-AIの構築を試みています.このDIEX-AIにより,いつ・どこで河川氾濫が生じるかという将来予測を可能とし,全国の河川への適用を目指しています.





〇家屋外 
短時間豪雨の予測精度には現在においてもある程度限界があり,避難勧告・指示の遅れや住民の低い避難率等により,水害発生初期及びその後の避難行動を余儀なくされています.そのため,水害発生後の氾濫域における水平避難行動や水中歩行状況を実験的に検討しています.
朝日新聞




〇家屋内 
大型の水槽を用いて実物大スケールの家屋内浸水実験を行っています.水槽内に実物大の部屋とドアを作製し,ドア開閉実験と家具転倒・散乱実験,避難実験を行い,家屋内にどのような潜在リスクがあるのかを検討しています.また,NHKの皆様がこの実験の撮影を行い,2019年6月30日にNHKスペシャルで放送されました.


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大気環境に関する研究

 都市における熱環境を測定する為のセンサを開発しています.このセンサは物体の加熱・放熱特性を生かしたものであり,風速・短波,長波放射を定量的に評価することが可能です.現在は一般の方々への普及を前提に.小型化を図っています.また,今年度はその多機能化も同時に目指し,簡易な長波放射計をこの観測システムに取り込みたいと考えています.





 世界でも有数の発着便数を誇る羽田空港を発着する航空機から排出される汚染物質や熱がどう拡散し,東京都市部を中心とした関東地方の気温や降水,風速といった気象要素にどう影響するかをシミュレーションによって検証しています.都市部における気象要素については,自動車や工場などからの排熱や化学物質が影響してくることが既往の研究によって指摘されています.
 航空機は一度の飛行によって大量の熱や化学物質を排出しますが,その影響調査はまだまだ少ないのが現状です.当研究室では,羽田空港発着の1便1便まで落とし込んで気象影響の観点での研究をすることで,航空機による環境影響への知見を増やし,航空機のさらなる活用や適切な管理運用につなげられるよう,日々研究しています.




 近年,都市部で多発しているゲリラ豪雨やヒートアイランド現象といった気象災害の被害が問題となっています.これらの発生メカニズムの把握及び予測精度の向上には,大気中の物理量の輸送を担う風速を気象シミュレーションに同化することが効果的であることが知られています.しかし既存の風速測定手法は高価なセンサ類を用いるため,陸域に密な観測網を構築することができません.そこで本研究ではデジタルカメラを使用した安価かつ高精度な新しい風速測定技術の開発を目的としています.ステレオビジョンの原理に基づき, 雲の3次元座標を同定し,雲の移動量から風速を算出します.用いる機材は市販のデジタルカメラのみなので,既存の風速測定手法よりも格段に安価に行うことができます.





 ヒートアイランド現象は,人工排熱や土地被覆の変化,熱容量の大きい建材使用量の増加などが要因となっていることは知られていますが,世界各地の都市に着目すると,地理的な条件や気候条件が異なっており,それらを含めた包括的なメカニズムは明らかにされていません.本研究室では,数値気象モデルWRFを用いたシミュレーション結果や観測データの解析により,そのメカニズムの解明に取り組んでいます.



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水環境に関する研究

本研究室では,新しい流量モニタリングシステムの開発を行っています.流量観測では,「流速計測技術」と「流速内外挿技術」の両輪が必要になるにも関わらず,これまで「流速計測技術」の開発のみに重点が置かれていました.そこで,流体の運動方程式を満足した形で,「点」・「線」流速データを「面」流速・流量に変換可能なDIEX法(Dynamic Interpolation and EXtrapolation method,力学的内外挿法)を開発しました(図13).H-ADCP計測とDIEX法によるリアルタイム流量モニタリングシステムでは,自動連続・リアルタイムかつ高精度の流量観測を実現しており,既に国土交通省による流量観測の一部において運用されています.また,画像解析法(STIV)や電波流速計とDIEX法を組み合わせた流量モニタリングシステムの開発も進めています(図14).

図13 DIEX法

図14 様々な流速計測とDIEX法を組み合わせた流量観測


 近年,プラスチックごみが紫外線,波.流れの作用で劣化し,微細化したプラスチック片(マイクロプラスチック,MP)が水環境中に流出しています.これらMPは軽いために遠方に運ばれやすく,汚染物質を吸着するために生態系への影響が懸念されています.陸域~河川~海洋間でのMPモニタリングが急務ですが,国内における河川のMP調査事例は海洋に比べて限られているため,本研究室では全国河川から流出するMP汚染の実態調査を行っています.その結果,ほぼ全ての河川からMPが発見され,市街地などにおける人間活動がMPの発生と関連していることが分かりました.


図15 MP観測の様子

図16 河川表面から採取されたMP

 

 
MP分析機器の紹介 



 海洋ごみの発生源対策を行うために必要な,河川の浮遊ごみ(川ごみ)通過(輸送)量のモニタリング技術を開発しました. 本技術は,簡便・安価・安全・自動連続的なモニタリングを実現するために,デジタルビデオカメラによる河川水表面の動画撮影及び動画解析により,川ごみ輸送量を把握するものです. 本技術は様々な自然系ごみ(草や木等)や人工系ごみ(プラスチックや缶等)の判別を一定の精度でできることが確認されています. 本技術は市販のカメラも使える安価な手法であり,海洋ごみ問題を抱える発展途上国の技術支援への適用が期待されます.


 

 

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